うま味のふるさと探訪

澤田酒造 薫さん 澤田酒造 薫さん

古式伝承を大切に、
新しい感覚の酒造りに取り組む

澤田酒造株式会社常滑

常滑焼で知られる常滑市の澤田酒造は、地域で長年愛されてきた酒蔵であるとともに、近年は各地で行われるお酒のイベントなどにも積極的に参加されています。

2015年に澤田酒造は五代目の澤田研一さんから娘である六代目の澤田 薫さんへと継承されました。また杜氏は薫さんの夫の英敏さんが務めており、伝統的な製法を守りながら、若い世代を中心とした新たな取り組みが始まっています。
澤田酒造六代目 澤田 薫さんに現在の澤田酒造について、お話を伺いました。澤田酒造 外観

澤田酒造について

澤田酒造株式会社は、江戸時代後期、1848年(嘉永元年)に創業しました。
現在も古式伝承を大切にしながら、「和釜・木甑(こしき)・麹蓋」を用いて江戸時代の製法を受け継いだ手作りによる仕込みが行われています。
澤田酒造の伝統の銘柄『白老』の名は、米を白くなるまで磨く、よい原料を丁寧に扱うという意味を込めた、縁起の良い“白”と、延命長寿と老成した技を表す“老”からつけられました。

澤田酒造の酒造りに使われる仕込み水は、酒蔵から2キロほど離れた知多半島の中央丘陵部に湧き出た水を元井戸に、江戸時代の頃から私設の水道でひいて使用している、大切な水です。水質としては、まろやかで素直な軟水です。
酒米も、常滑や美浜、知多半島産や碧南など、近くの地域で採れたものにこだわっています。澤田酒造 仕込み水

木の道具や古式伝承の魅力について

澤田酒造では昔ながらの製法を守っています。
木の道具のいい点でいうと、木の甑だと調湿性もありますし、古くから伝わった木の道具には無理がないんですね。
反面、自然の素材だから、きちんと丁寧に扱っていかないといけない。
そうしたものを、文化として受け継いでいきたいと考えています。木の甑甑

大きな和釜を使って米を蒸し、熱い甑(こしき=大きな蒸し器)の中で蒸し米を掘る作業は重労働です。また、木製の甑のメンテナンスも大変ですので、和釜・木甑で仕込みを行う蔵は少なくなっているのが現状です。

澤田酒造 酒造り
今、「外国人向け英語ツアー」を試験的に実施しているのですが、反応が非常によかったのです。特に、文化的な理解度の高いヨーロッパからのゲストには好評で、非常に喜んでいただけました。
感想を伺っていくと、たいへん感銘を受けた、本当に美しい、と言っていただけまして、やはりそれは蔵の伝統や、古式伝承による酒造りを文化として評価していただいているんだなと感じます。
そこには可能性があるなと思っています。

商品ラインナップについて

澤田酒造 ラインナップ
自分達としては、もともとの知多酒らしい濃醇な旨味として、「白老」味が一番ベーシックな味と考えています。

それから40年前くらいにできた、しっかりとした味わいで辛口の「からから」。これも定番の銘柄として売れ筋のお酒になっています。

知多市の固有種である佐布里梅(そうりうめ)を使って、藁灰でアク抜きをするなど、江戸時代のレシピを忠実に再現して仕込んだ純米吟醸の梅酒「白老梅」も人気です。

 佐布里梅

新しい将来の顧客としての若い人や女性、そして海外向けの販売を見据え、この地域の酒造好適米「若水(わかみず)」を用いたお酒や、フルーティな味わいの“うすにごり”など、時代やお客様のニーズに合わせて、新しいお酒の開発を行なっています。
また、季節に合わせた夏酒やひやおろしなど、季節ごとの限定酒にも力を入れています。お客様の嗜好も多様化する中、珍しいものが飲みたいというお声もありますので、日々なんとかしないといけないということで、いろいろと試験的に作っているところもあり、結果的に製品がだんだんと増えている状態です。

お酒のラインナップが増えすぎるとお客様にとってはわかりづらくなってしまうので、そうなってしまわないように、これまでの主力であった伝統のラインナップも大切にしながら、今後整理をしていこうと考えています。

若い蔵人が活躍する「発信する酒蔵」へ

今、澤田酒造には今全体で20人くらいの人が働いていて、正社員は4人です。平均年齢は36〜37歳くらいですね。澤田酒造 若い蔵人澤田酒造 絞り若い蔵人

20代から30代、40代の比較的若い蔵人が多くて、新しいイベントを企画してくれたり、役者をやりながら、半農半X的に、農業をやりながら冬酒を仕込みに来てくれたりと、さまざまなスタイルで働いてくれています。

これまで30回以上開催を続けてきた、年に一度の「酒蔵開放」では、酒造工程や酒蔵の見学や生原酒などの試飲などを行なっています。澤田酒造 澤田薫さん澤田酒造 酒蔵開放

この「酒蔵開放」も、昔はうちの人手にも余裕があったのですが、ありがたいことにだんだんとお客様が増えてきて混雑するようになってきました。こちらの人手も足りなくなってきて、お客様もゆっくりお酒が飲めないというようなことにもなっていて。
そこでお祭り好きの若い蔵人が、新しく「倉庫酒場」を発案してくれました。古き良き「酒蔵開放」の宴会の雰囲気を残していきたいなということ開催しています。

その「酒蔵開放」に合わせた別会場の「倉庫酒場」では、音楽だったり遊びの要素を取り入れて、投げ銭ライブや半島らしく海の恵みを活かしたおつまみなども販売していまして、今年は新型コロナウイルスの影響で規模を縮小して開催した中、「倉庫酒場」の方では動員が伸びていて、盛り上がっています。

日本酒の飲まれる量自体が減ってきているので、例えば“発酵”のような、新しい切り口で、これまでと違ったお客様にも届くように発信をしているところです。これは4年前から、「秋の蔵開き」というかたちで始めています。“発酵”をテーマにすることで、日本酒を飲む人に絞らずに、視点を変えて、発酵食の文化から見た日本酒にフォーカスしたいと。これまでは碧南の宮本糀店さんや碧南のみりん屋さんにもご協力いただいたりしながら、知多半島内に限らず、もう少し広めの地域で企画しています。

澤田酒造 入り口

また「酒蔵開放」のタイミングに合わせて「外国人向け英語ツアー」なども合わせて実施するようになりました。少子高齢化社会の中でも、新たなお客さんにも日本酒の魅力を届けていけたらと考えています。

澤田酒造のこれから

一番は、この澤田酒造の酒蔵を後世に残したいということです。
知多半島の誇りとなるよう、古きよき酒蔵として、木の道具を使って、地元のお水、地元のお米を使っていくことで、“テロワール”の感じられる日本酒を作っていきたいですね。
(※「テロワール」=「土地」を意味するフランス語terreから派生し、 ワインやコーヒー、茶などの品種における生育地の様々な条件により生まれる特徴のこと)

海外ゲスト向けの「外国人向け英語ツアー」も、まもなく旅行商品として立ち上げられそうなところまで話が進んでいます。そうした商品造成はこれまでの澤田酒造の歴史にない、完全に新しい取り組みになります。


2020年は飲食店の需要も新型コロナウィルスの影響で厳しい見通しになると思いますので、既存の流通も大切にしながら、それに加えて、お酒を商品で売ることから利き酒などの体験という形を通じて、インバウンド対応のツアーなど海外への販売なども含めた、新しい流通のやり方も進めていきます。

この酒蔵や常滑市を目的地として、飲みに行きたいと思ってもらえるエリアにしていきたい。そのためには、蔵としての発信の仕方も変えていく必要があるということで、いろいろなことに今取り組んでいるところです。

澤田酒造株式会社
〒479-0818愛知県常滑市古場町4-10
http://hakurou.com/

澤田酒造 オンラインショッピング
https://hakurou.ocnk.net/

澤田酒造 Facebookページ
https://www.facebook.com/sawadasyuzou

 

4市8つの探訪を終えて

今回の澤田酒造で、西三河から知多半島にかけて4つの市にある8つの生産者を訪問させていただきました。

一般的に、日本酒というお酒は毎年飲みきることが前提で、ワインのように熟成させる概念がありませんでした。買う人も新酒の時期などは意識するけれど、日本酒の業界内以外では、仕込の年を気にすることはこれまでほとんどなかったそうです。
しかし実は、日本酒にも「2019 BY」[32BY]のように酒造年度の表記がされています。(BYはBreweryYearの略称。)

しかし最近では、日本酒をワイングラスで白ワインのように楽しんだり、ウイスキーや赤ワインのように熟成度合いやビンテージにこだわって、製造年に価値を見出す流れも少しずつ始まっていまるように感じました。

「竜の子街道」の4市がある知多半島や三河地区の食文化は、こうした特産品を生んだ地域の気候・風土、あるいは物流との位置関係などがもたらす「テロワール」、そして周囲で採れる食材や調味料との「マリアージュ」で育まれていました。
例えば、酒造りでは豆味噌やたまり醤油の生む濃口の味に味わいに負けない旨口の濃いお酒、食中酒が好まれてきました。

しかし、時代とともにライフスタイルが変わるとともに、調味料やお酒、お茶などの消費のされ方にも変化が訪れます。

西尾市の今井醸造さんでは「ぞうめし屋」やカフェを通じて、現代のパン食や洋食に馴染んだお客さんに、改めて味噌のおいしさを知ってもらうことに向き合っていました。
碧南市のヤマシン醸造さんもまた、オリーブオイルと白だしを合わせた新しい商品が注目されています。
半田市の国盛では、自社の梅林での梅の栽培や梅酒造り、日本酒造りの体験に取り組みながら、企業ミュージアムを通じた日本酒文化の伝承に尽力されています。
この常滑市の澤田酒造では、試飲会や料理に合わせた提案、お酒に合うおつまみやお酒を楽しむ場までも含めた蔵開きを行なっていました。

ここには書ききれなかった4つの生産者でも、それぞれに大切に受け継いできた伝統の味や製法などを守りつつ、原点に回帰したり、別の切り口からその価値を伝え直したりすることで、“いいものを作って売る“という販売方法から、自分たち自ら、“直接良さを伝えること、体験してもらい届けること“へと、流通方法や商材としてのあり方もシフトしつつあるのではないかと感じました。

そこには時代に合わせた商品や体験としての新しい魅力が宿り、お客さんやそこで働く人達とのこれからの向き合い方、関わり方のかたちがみえてくるようでした。
それぞれの思いや取り組みを思い浮かべながら、ぜひそれぞれの土地や生産者ならではの「うま味」をお楽しみください。