うま味のふるさと探訪

杉浦味醂の外観と杉浦代表 杉浦味醂の外観と杉浦代表

みりんは“甘いお酒”。
長期の熟成で本みりんの
旨味にこだわる

杉浦味淋株式会社碧南

碧南市でこだわりのみりん作りを続ける杉浦味淋株式会社で、代表の杉浦嘉信氏にお話を伺いました。

杉浦味醂 三河本みりん

碧南市の醸造業について

碧南市では、”醸造のまち”ということで最近ではPRしていますが、日本有数のみりんの産地として、みりん蔵が5軒、それに発祥の地として白醤油をつくっている蔵も3軒あります。
たまり醤油や味噌作りもいまだに残っていますが、最盛期の戦後の頃には、みりんだけでも25、6軒あったといわれています。

碧南のみりん造りの歴史は、半田市のミツカンさんとも似ています。
例えば、廻船問屋として江戸まで醸造品を運ぶ自社便をもっていて、物流をおさえていたこと。
知多半島のお酒というのは、大衆酒として大量に消費されて、副産物として酒粕ができました。
碧南市でも九重味淋さんが廻船問屋で、廻船で清酒を運んでいたんですが、その副産物である酒粕に目をつけたんですね。
清酒粕を蒸留すると、香りのいい焼酎ができます。それが粕取り焼酎。
その粕取り焼酎と、もち米、米麹を使うと、甘いお酒ができる。

そこから三河みりんができたんです。

原点回帰

 

みりんは、原料を贅沢に使った“甘いお酒”

昔のみりんは、今のように甘みや旨みが濃くなかったんですが、さらっと飲みやすい。砂糖がない時代、甘みがあるお酒ということで人気があり、重宝されました。

みりんは独特の香りのある甘い飲み物、女性でも楽しめる高級なお酒として人気があって、それが江戸時代の後半になるとだんだんとみりんは和食、例えばそばやうなぎの蒲焼などに使われる調味料となっていったんです。

それから明治時代になると、酒税法の制定で昔からのみりんは酒屋さんだけに販売が許可されるようになって、酒屋以外でも売れる「みりん風」が登場しました。
今、スーパーで並んでいるみりん風調味料やみりんタイプ調味料は、アルコールがほとんど入っていなかったり、ブドウ糖など加糖していたり、飲めないように塩を入れて不可飲処置をしているんです。

そういう歴史的な側面もあって、我々はみりんというのは“飲めるお酒”なのだと言っているんです。

うちの三河みりんはもち米、米麹、本格焼酎で仕込んだもので、原料を贅沢に使った「お酒」なんです。だから今でも私は、甘いお酒を造っている、そういう認識です。

杉浦味醂 三河本みりん

杉浦味淋の歩み

杉浦味淋醸造所は大正13年の創業で、碧南に今ある5軒の中で一番歴史が浅いみりん蔵になります。祖父は、親父が4つか5つかという頃、40代半ばで亡くなってしまいました。
ですので当時の話があまり残ってはいないんですが、細々と祖母が続けていたようです。

戦後は原料が手に入らず、九重さんなどいくつかの蔵を除いては。もち米が入ってこなくなり、みりんが作れなくなりました。それで国の救済措置として、多くのみりん蔵が米をつかった日本酒造りに切り替わっていきました。

そうした中で、祖母はみりんから酒造りに転業するのを嫌がって、九重味淋さんの支援をいただいたりしながら、なんとかみりんの販売を続けた、だからうちが今もみりん屋として残っている、と聞いています。

あと、古いものといえば、戦前の飛騨高山の特約店でつかっていた看板が残っていて、大正・昭和でもそのあたりの地域まではうちのみりんが売られていたようです。

愛桜の看板

原点回帰とおじいさんのメモ

平成15年に私が父親から杉浦味淋のあとを継いだんですが、当時の財務状況は、火の車でした。それで、継いでみて初めてわかった利益の出ていない事業を整理していきました。整理を進めていく中で、1年目の売り上げが1/3になって、資本金を食いつぶしてしまいました。
銀行が飛んできたりしましたが、どうしても抜本的に会社の仕組みを変えないといけなかった。資金繰りが悪化した中、どうしようかということになったんですね。

受け継いだ事業の中で業務用向けのみりんの販売、うどん屋さんや鰻屋さんなどは利益をきちんと出せているものとしてあったので、そうした業務用の分野、店舗が増えて成長しているチェーン店に向けての営業など、ある程度の量が見込めるところを目指しました。

出荷

全国展開しているチェーン店の仕入れ担当の部長さんが、たまたま板場上がりの料理人だった方で、うちのみりんを使ってくれていたこともあって、そこで事情を話すと、少し値段を下げることでチェーンとしてまとめて仕入れてくれることになりました。おかげでなんとか支払いが滞らないで済んだんです。

そんな状況だったので、このまま商売を続けるか、いっそ看板を下ろすかを考えたりしている時期に蔵の2階の物置を整理していたら、祖父の時代のみりん造りの配合が偶然出てきたんです。
虫がくって茶色くなったメモ書きで、順風満帆だったら気に留めずに保存しただけだったかもしれないのですが、そのとき、「ああ、これがおじいさんがみりん造りを始めたときの配合だ」と思いました。

原料のもち米

自分のところと比べて周りの老舗が濃いみりんを造っているのはもちろん知っていたんですが、おじいさんのメモの配合は無茶苦茶贅沢に材料を使っていたんです。
これだけもち米を使うと原料費もかかるし、手間もかかる。
でも、周りの同業他社さんが中身で勝負して、地道に積み上げていくのもみていたので、“よし、このレシピを復刻させよう”と。おじいさんが早くに亡くなったこともあり、原点を知らずにあとを継いだので、このメモをもとに杉浦味淋の原点を探そうと決めました。

杉浦味醂 杉浦代表

創業時のレシピと
みりん造りのコンセプト

メモ通りに造ったみりんも、初めはなかなか売れませんでした。

造ってみると、他の大手メーカーさんでは色がつかないように技術開発したりしていましたが、この三河のみりんは色の濃いことが特徴で、取引先には「醤油なの?」と笑われました。
でも、うちのみりんはもう自然に逆らわずに、自然の恩恵を受けて造るので、黒く醸成感のあるみりんになります。

杉浦味淋を継いで復刻させた三河熟成みりんのコンセプトは、“中身が見える製品、顔の見える売り方”と決めたんです。

父親の代の頃はディスカウントストアで販売していましたが、今回復刻した製品は値引きをしない、それでもいいというお客さんにフェイス・トゥ・フェイスで地道に売っていこうと。手間をかけて値段に見合うものを造っていこうと決めました。

3年熟成のみりんは、正直、最初に仕込んだものがなかなか売れず、まっ黒になってしまい、買い手もみつからないと思い意気消沈しましたが、せっかく造ったのだからと試しに舐めてみたところ、旨味・甘みが増して絶妙な熟成感になっていたので、販売することを決めした。
搾りたてから1年経って2年経って3年経って、仕込んだタンクごとにどの状態かがわかるようにしてあります。

杉浦味醂 杉浦社長

この、後ろの窓際に並んでいるのもみりんです。年ごとにどうなっていくかわかるようになっています。古いものでは、15年前に仕込んだもののもあります。

“じっくりと時間をかけて育てる。”
販路の開拓と時間の価値

販路を広げるために、4日間で何万人もの人に見てもらえるチャンスである、東京の展示会『FOODEX JAPAN』に出展することを目標にしました。
単独で出展するのはすごく費用がかかるので、愛知県としての一般公募の枠に応募してPRすることにしました。最初に出るときに、妻には反対されましたが、最低3年はだそうと決めていました。

いざ出してみると、同じ展示会に同業他社も出展されていました。
最初は危機感を感じました。少しでも販路を探そうと思っていたのに、同業者がいることに正直悶々としたんです。でもお客さんに説明したときに、「ここ愛知県のブースですよね?反対側にもみりん屋さんのブースありましたよね?」と聞かれて、碧南はみりんの産地だと説明をすると、「こちらのみりんは色が黒いけど、甘みが濃いね。」と言ってくれました。

そこで、お客さんは比較するものなんだと気がついたんです。同業者が出ているのが最初は嫌だったんですが、比較してもらい、最終的にはお客さんが製品を選ぶのだと学びました。

その後も展示会に出し続けることで、「去年も出てたよね。」と知ってもらえるようになったり、銀座の和食屋さんとの繋がりができたり成果が出てきました。
おかげさまで九州の和食材の専門店など色々なところで扱ってもらえるようになりました。うち以外のものはいろいろなスーパーでも扱っていて、そこで次の三河のみりんを探したいときに“こだわりのあるみりん”として、バイヤーさんに選んでもらえるようになってきたように感じています。

これからの味醂作り

おじいさんのみりん、原点のみりんを復刻させてから15年が経って今思うのは、醸造とは、“じっくりと時間をかけて育てる”こと。

大手メーカーさんは本物に近いものは技術開発で造れるけれど、やはり混ぜ物だったり温度だったり、自然に逆らう造りになっています。自然のまま、じっくりと時間をかければ、おいしいものができる。時間は価値であると考えています。

醸造タンク

蔵の中醸造タンク

 

「発酵ブーム」と
これからのみりん造り

トヨタ自動車さんのような工業系の”ものづくり”が強い愛知県の中でも、特徴のある食品加工業ということで、この4〜5年は醸造業が見直されているのかなと感じます。

最近の発酵ブームというのもあってか、お問い合わせいただく中でも専門的な人が増えて、コアな見学者も増えています。千葉や兵庫からわざわざ見学に来てくださったり、岡崎で八丁味噌を見てからみりんや白しょうゆを見たいということで碧南に来たり、発酵食ということでこの地域を訪れるのは面白いと思います。

みりんの売り方も、“夫婦2人だと使いきれない”というお声や1.8Lどころか500mlでも多いという方も増えています。もう少し小さいサイズでも出していったり、そのあたりは時代に合わせてやっていかないと、と考えています。

今後は、みりん単体だと生産量や販路を持っている同業他社もあるので、うちは本みりんを柱にしながら、付加価値をつけた加工品、業務用ソース、つゆの素などを協力会社と一緒に造り、みりんの使い方や価値を伝えていきたいですね。

杉浦味淋㈱ロゴ

杉浦味淋株式会社
〒447-0814 愛知県碧南市弥生町4丁目9

杉浦味淋株式会社 公式HP/オンラインショップ
https://www.mirinya.com/

杉浦味醂 外観